2026.08.10

AIバブルの狂躁と冷徹なGoogle—「循環取引」に群がる競合を横目に一歩引く王者の生存戦略

弁護士 西村 幸三

GoogleはAI競争に敗れたのか?

「GoogleはAI競争でChatGPTやClaudeに後れを取っている」——ここ数ヶ月、ベンチマークのトップを他社に譲るシーンが増えたことで、こうした「Google敗北論」を耳にすることが増えた。

直近でも、AI開発を支えてきたトップレベルの人材離脱が報じられ、Googleの株価が下落する場面もあった。

しかし、短期的なモデルの性能表や人材の動向だけに目を奪われていると、Googleが裏で進めている「極めて冷徹で合理的なAI戦略」を見誤ることになるように思われる。

狂躁を極めるAI業界で今何が起きているのか。マネーがぐるぐると循環する競合他社の危うい構造と、そこから距離を置いて「AIのコモディティ化」を見据えるGoogleの本当の狙いを読み解く。

マネーが還流する循環取引の罠—競合が抱える構造的リスク

現在のAI業界において、最も危うい構造が、
「循環投資・循環取引(Circular Deals)」と呼ばれる資金の還流現象である。

循環取引は、会計監査上も企業統治上もネガティブで忌むべきものとされており、連鎖倒産を招く典型的リスク要因とされている。

それが、AI業界では、数兆円レベルの規模で、主要ベンダーをプレーヤーとして展開されているのである。

大手クラウドベンダーや投資家(Microsoft、Amazon、Nvidia、SoftBankなど)が、OpenAIやAnthropicといったAIベンダーに巨額の出資を行う。

そして、出資を受けたAIベンダーは、その資金をそのまま出資元や提携先のクラウド利用料(GPU計算資源のレンタル代)として吐き出す。

【循環取引のマネーフロー】
ビッグテック・投資家 →(巨額出資・貸付)→ AIベンダー(OpenAI / Anthropic等)→(クラウド利用料・計算資源代として還流)→ビッグテック


このビッグテックには、nVIDIAのように計算に必須なGPUをAIベンダーに販売しながら販売代金をそのままAIベンダーに出資するものもいれば、マイクロソフトといったAIベンダーにクラウドの計算資源を提供してそれを出資に回するものもいれば、ソフトバンクのようにOpenAIにハイリスクな資金投入を繰り返す(保有するOpenAI株の仮想的な時価総額を基礎として投資家から資金を調達していると思われる。循環取引というよりレバレッジというべきか)プレーヤーもいる。

これらにみる循環取引の構造により、クラウド事業者は見かけ上「AI事業向けの売上が急増している」ように見せることができる。

データセンターの提供は実需の裏付けがあり、机上でキャッシュだけがぐるぐる回る循環取引とは異なるという反論は一応成り立つ。

しかし、アナリストの分析によれば、大手クラウドのAI関連収益の大部分は、実は「自社が出資した特定のAIスタートアップの計算コスト」によって占められているという冷酷な試算すら存在する。

そして、そのAIスタートアップにおいて、その中でも主要なAIモデルベンダーにおいてすら、データセンターへの投資に見合うだけの収益を、エンドユーザーから得られていない。

というより、データセンターへの投資が収益見込に照らしてもあまりにも桁違いに巨額すぎるのである。

問題は、「実需(一般企業や個人ユーザーからの純粋な外部売上)」がまだこの莫大な投資に見合うほど立っていない、そして、現状、数年内に投下資金が回収でき見込がほとんど立っていないことだ(特にOpenAIは、計算資源のリソース=マネーを「燃やす」レベルが凄まじく、年間1兆円~数兆円レベルの赤字を今後数年計上しながらデータセンターを確保し計算資源を調達するという)。

専業AIベンダーは膨大な赤字と将来のインフラ支払約定を抱え、出資者であるメガテックもそのエコシステムに共倒れのリスクを抱えながら乗っかっている。

そんななか、中国系ベンダーのAIによる性能対価格のダウンサイジングは、あっという間にトークン単価を100分の1程度まで引き下げようとしている。

中国系AIは、ぱっと上がるだけでも10社ほどがフラッグシップモデル競争に殺到している。

中国がこれまで、鉄鋼、ソーラーパネル、スマートフォン、バッテリー、EVなどで仕掛けてきた価格競争によるレッドオーシャン化は、AIにも既に押し寄せてきている。

中国企業は、一種の性癖のように、国や各省の推進するトレンドに多くの国営・民間企業が殺到してあっという間に極端な過剰生産に陥り、各産業分野で、世界市場のレッドオーシャン化とデフレ輸出を招いてきたことは、改めて語るに及ばない。

もし、AIモデルのコモディティ化がさらに進み、OpenAIやAnthropicによるエンドユーザーからの収益化が遅れれば、このチキンレースの果てに、自作自演の資金循環は一気に逆回転を始める危険を孕んでいる。

これが、AIバブルの崩壊が起きる時とも言われ、それは既に大幅に予想を早めて始まっているとも言われている。

循環から一歩引き、性能競争から高効率・低価格へ舵を切るGoogle

こうした「自前で金を貸して自社のサービスを買わせる」ような歪んだ循環取引の輪に、加わっているようでありながら、フラッグシップモデル追究へのこだわりから一歩距離を置いているように見えるのが最近のGoogleである。

Googleはこの数ヶ月、モデル開発の軸足を「フラッグシップの追究」から「省トークン・高速化・低コスト化」へと露骨に移しているように見える。

例えば、Google Workspaceで提供されるモデルの動向を見れば明白だ。

2026年8月現在で、従来の上位モデル「Gemini 3.1 Pro」と、軽量高速モデル「Gemini 3.6 Flash」を比較した場合、実務でのレスポンスだけでなく、特定のタスクやエージェント性能のベンチマークにおいても「3.6 Flash」が逆転する現象が起きている。

さらに、Googleは「Google AI Pro」をはじめとする有料プランの実質的な値下げやリソース拡張を断行した。

これは、「モデルの単体性能でプレミアム価格を取る時代は終わる(コモディティ化する)」ことを見越し、他社が循環取引で価格を維持しようとする中で、圧倒的なコストパフォーマンスで、エンドユーザーのSaaS、クラウド市場を一気に押さえるツール(Googleドキュメント、スプレッドシート、スライド、スケジュール、Gmail、Meet、みなそうである)の一つとしてAIを展開する戦略と受け取れるように思われる。

さらにスマートフォンやPCのChromeに搭載されている無料Geminiの「AIモード」は、日常のチャットはもちろん専門知識にわたっても検索の延長としてGoogle検索と連動して高度な情報を出せるので、だいたいのことは足りてしまうレベルになっており、しかもトークン上限に達することを気にする必要もないほどである。

一方、ChatGPTの無料枠はすぐになくなってしまう。

そのため、無料ユーザーレベルでは、ChatGPTのユーザーシェアは、既にGeminiによって追い抜かれているとも言われている。

専業ベンダーが絶対に真似できない垂直統合型エコシステム

専業ベンダーやそれに過度に依存する競合に対し、Googleが持つ根本的な強みは、自前で完結する垂直統合型エコシステムと、確固たる既存収益の存在である。

データの入り口(SaaS): Gmail、Googleドライブ、ドキュメント、スプレッドシート、スライド、Meet、スケジュール、そして検索と広告

自社ハード&インフラ(PaaS/IaaS): 独自AIチップ「TPU」の設計・製造、巨大データセンター、Google Cloud (GCP)

ユーザーがGoogle WorkspaceやAI有料プランを契約すれば、自社のドライブ内にある書類やソースコードをそのままAIの解析対象(グラウンディング)として即座に活用できる。

仮にAIのフラッグシップモデルが完全にコモディティ化し、AI単体での利益が出なくなったとしても、Googleにとっては収益事業として確立したエコシステムからの収益によって収支はバランスするから、痛くも痒くもない。

Googleにとって、AIの利便性は、すでに盤石な利益を生んでいるWorkspaceやクラウド、検索事業へユーザーを引き込むための高効率なパーツとして機能しているからだ。

Googleの無料ユーザーで、Gemini Notebook (旧Notebook LM)のあまりの性能と利便性に、有料の Google Workspace やGoogle AI Proを契約することになったユーザーは多いはずだ。

Gemini Notebookは、参照するソースを絞り込むことにより、AIのデメリットであるハルシネーションを相当抑え込むことができるが、実は参照ソースを絞り込むことによってトークン消費の効率は飛躍的に高まる。

だから、Notebookは無料版であっても、トークンの上限を気にすることもなく、膨大な資料を放り込んで解析することができてしまう。

Notebookのソース数の上限を増やしたい、よりセキュアにしたい、学習されたくないといったことで、無料ユーザーが有料ユーザーにどんどん切り替わっているのである。

これは、既に収益化されたエコシステムと財務基盤を有するGoogleだからこそできる、強者の戦略である。

自社でTPUを設計・運用し、既存事業の豊富なキャッシュフローを持つGoogleに対し、他社のGPUを借りて巨額のサーバー費用を払い続け、循環投資で水増しした成長に頼る専業ベンダーが、この長期的な価格破壊戦(体力勝負)に耐え切れるのかは、極めて疑問といえるだろう。

人材流出報道の裏にある地道な改善力とGoogleの凄み

最近、GoogleのAI基盤を築いた重鎮リサーチャーら4名(例えばTransformer論文の著者らの離脱や、DeepMind幹部の独立など)の退社が報じられ、市場の動揺から株価が下落した。

しかし、この離脱の背景を冷静に分析すると、Googleの戦略転換との構造的なミスマッチが見えてくる。

流出したトップ人材たちの多くは、「純粋な基礎研究」や「自律的学習による限界突破モデルの追求」を志向するフロンティア派だ。

Googleが「AIの実用化・低価格化・高速化・自社プロダクトへの組み込み」へと軸足を移していけばいくほど、それは新規性を追い求めるサイエンスというより、地道なエンジニアリングによるチューンアップの領域になってくる。

彼らが求める研究目標とGoogleが求める目標や環境とのズレが生じ、流出することはある意味で避けられない道だったとも言える。

トップリサーチャーの離脱は短期的には損失だが、だからといって「GoogleがAI開発で手遅れになる」と考えるのは早計だ。

Googleという企業の歴史を振り返れば、おそらく、彼らの最大の真価は、他社や論文で登場した先端技術(中国系AIを含む)を取込み、自社プロダクトのスケールに合わせて地道かつ圧倒的な品質・効率でエンジニアリングとして再構築することにある。

既にAIのフラッグシップモデルの開発競争は、性能向上の曲線が緩やかに横向きになる対数曲線を描きつつあり、わずかな性能向上のために開発に要求される計算資源が、指数関数的に跳ね上がっているとされる。

競合は、先端モデルの開発のため、膨大な計算資源に投資家の資金を注ぎ込んで、底なしに電力とマネーを燃やし、まさにしのぎを削り、骨身を削ってフラッグシップモデルを公開する。

ChatGPTやClaudeを(彼らの批難によれば蒸溜して。あるいは先行研究の手法をありったけ取り込んで)キャッチアップする中国系モデルがオープンウエイトモデルを出す。

Googleは、さらにその一歩あとをキャッチアップする側に回ってしまえば、他社の成果やオープンモデルの知見・手法を合法的にベンチマーク・研究し、自社インフラに最適化(再構築)するエンジニアリング力、そしてGoogleの自力と収益力は、殆どの企業が及ぶところではないと思われる。

それはエンジニアリングとチューンアップの領域である。

一歩後ろを走りながら、最も効率の良いスケーリングを施し、市場を掠め取るのは、Googleの最も得意とする戦術だ。

中国においても、GoogleのようにTPUなどのハードウエア製造からエンドユーザーへの販売までを網羅的に収益事業として成立させうるのは、アリババ、せいぜいバイトダンス(Tiktokの親会社)までのように思われる。

オープンウエイトモデルそのものも既にレッドオーシャンの域にあると思われ、中国でも専業ベンダーはいずれ体力が尽きて垂直統合ベンダーに吸収されていくと思われるが、垂直統合においてアリババやバイトダンスと張り合える米国企業は、Googleだけのように思われる。

GoogleとAnthropicの循環取引の構造

注意すべきは、Googleは、自身がGeminiを開発するAIモデル企業でありながら、Claudeを擁するAnthropicに対して、巨額の計算資源を提供し、その原資を出資するという、近年のビッグテックとAIスタートアップに見られる循環取引に自ら踏み込んでもいる。

2026年単年度では、GoogleがAnthropicへ段階的に資金を出資する一方で、Anthropic側が数億〜数十億ドル規模のクラウド利用料(Google CloudおよびTPU使用料)をGoogleに支払うことで、出資金が即座にGoogle Cloudの業績・売上へと還流する。

しかし、よりディープなコミットメントは、複数年度にわたる長期的な契約である。AnthropicはGoogle CloudおよびカスタムAIチップ(TPU)の利用契約として、5年間で約2,000億ドル(約30兆円)規模に及ぶ巨額の計算資源利用をコミットしたと報じられている。これはGoogle Cloudの受注残高(バックログ)の40%以上を占める数字である。

Googleの親会社Alphabet側は最大400億ドル規模(出資100億ドル+追加枠300億ドル)の追加出資方針を掲げ、強力な資金還流ループ(資金提供→自社インフラでの消費)を構築している。

モデル開発に伴う膨大な研究開発費やモデルの陳腐化リスクはスタートアップ(Anthropic)に負わせつつ、Google側は自社インフラの稼働率と高利回りなクラウド収益を長期的に確定させ、成功時の上振れ益(株価・株式価値)を享受するというものである。

ライバルを育てるジレンマとGoogleの真意

Anthropicは、評価額が数千億ドル規模に達し、AIモデルとしてのコーディングを核とする推論能力としてはもはやOpenAIを上回り、年換算売上も急速に拡大して収益化ではOpenAIを追抜き、はるかに先行するに至った。

Anthropicはもはや、AI黎明期に計算資源に莫大な投資を積み上げてきたOpenAIの先行者利益を、脅かすどころかほぼ失わせるに至り、業界屈指のトップランナーとなった。

自らもAIモデル(Gemini)を展開するGoogleにとって、Anthropicは本来最大のライバルの一角のはずである。

一見すると、5ギガワット(GW)規模に及ぶ貴重な次世代TPUインフラを競合に提供することは敵に塩を送る自傷行為のようにも見える。

しかし、ここにはGoogleの冷徹な計算が存在している。

自社モデル(Gemini)単体で市場を独占できなくとも、収益化でAIモデル事業者の中でもっとも先行するAnthropicが現在の流れのままハイエンド市場を制すれば、その背後にある数兆円〜数十兆円規模のインフラ消費とともに、AI業界における最大の株式の含み益を得ることができるのである。

Google自社は、モデルの効率化・高速化に開発の軸足を置き、ハイエンドモデル開発ではAnthropicに投資をし、いわばモデル開発において、自分とライバルを秤にかけてリスクヘッジ、分散投資をしているようにも見えるのは、私だけだろうか。

Googleは、Nvidia依存からの脱却を図るAnthropicに、自社チップ(TPU)というインフラを独占的に供給することになっている。

そして、Googleは、クラウド事業でAnthropicにとてつもないコミットメントをしているように見えるが、これもインフラ事業者としてのものであり、Anthropicが仮にAIバブル崩壊の憂き目を見ても、データセンターそのものが過剰投資になるとは考えにくく、つまり、仮にAnthropicが他社にキャッチアップされたとしても、データセンター・クラウドの計算資源の需要者がなくなるということは考えにくい。

つまり、ハイエンドモデル開発では自社とAnthropicを秤にかけ、データセンターやTPUのインフラの胴元としては、最も有望なAIモデルベンダーをデータセンターの顧客に抱え込み、かつそこに資本参加するという、リスクヘッジかつ多角的な投資をおこなっているのであり、いわばポートフォリオの分散の結果ともいえる。

Googleの着眼点はある意味戦略的だといえる。

なぜ人材はGoogleからAnthropicへ流出するのか

ここで生じる疑問が、GoogleからAnthropicへの人材流出である。

巨大IT企業の圧倒的な資金力や報酬体系(RSU等)をもってしても、トップクラスの研究者やエンジニアの流出を止めきれていない。これは単なる金額の多寡ではなく、大企業のジレンマと研究環境の純度の問題のように思われる。

なにより先駆者であったOpenAIにおいて、設立以来、多くの人材が、Anthropicやその他のAIモデルベンダーに流出してきたので、GoogleからのAnthropicへの人材流出も、よりハイエンドなモデルを開発する指向を持つ会社への流出として、説明できるといえはそれまでである。

しかし、Googleから流出した人材がAI黎明期やGoogleの歴史において担っていた功績の大きさから、大きなインパクトとなったものであった。

Googleほどの規模になると、既存の検索・広告事業、TPU事業、クラウド事業、オフィスなどのアプリケーション事業、その他多岐にわたる事業との間で、戦略上の調整や、人材や予算などのリソースの食い合いが起きる。

Googleは、いわばインフラ屋として、計算資源を生み出すデータセンター、クラウド事業へのインフラ投資の合理性を考えれば、莫大な計算資源を燃やし続けるAI開発において、持続可能性、収益化見込みとのバランス、既存事業に対して投資をしてきた既存株主への説明としても、AIモデルの効率化・高速化のためのチューンアップを、大きな柱と位置付けざるをえない。

また、Google WorkspaceへのAIの載せ込みは、Googleにとってのドル箱たるSaaS利用の企業ユーザーの顧客満足度と、契約増や単価増の訴求力を高める上で、必須のものである。

しかし、そこでのAIは、オフィスアプリケーションの付属サービス的な位置付けとならざるをえず、Googleは、WorkspaceにGeminiやNotebookを付加することによっての顧客単価を上げられていない。

そもそも、Googleは無料アカウントにまで、GeminiやNotebookをかなりのレベルで使えるように開放している。

マイクロソフトも、マイクロソフト・オフィス(Saas事業)の契約ユーザーからの収益とクラウド事業の収益に大きく依存し、もともと本業としてフォーカスしていて、その点は、Googleにも似ている(Googleほどの全方位、垂直統合はできていない)。

そのマイクロソフトは、AIモデルではCopilotが失敗というしかなレベルではなはだ迷走した。

マイクロソフトがパートナーとして選んだOpenAIも、Anthropicの比ではない計算資源とマネーを燃やし続けていながら、AIモデルとしての先行者利益を、対Anthropicでも、対中国系AIモデルでも、失いつつある。

マイクロソフトがOpenAIに循環取引としてコミットメントしているが、正直、うまく行っているとはとてもいえないし、収益化見込は、Anthropicに比べるとかなり暗い。

一方で、Googleがパートナーとして選んだのAnthropicは、AIモデルに特化した企業であり、「AIの安全性と最先端フロンティアモデルの追求」という単一のミッションに特化しており、開発したコードや研究成果がスピーディにダイレクトにフラッグシップ(Claude)に反映される。

AIモデル専業ともいうべきAnthropicのAIモデル開発に注力する密度、現場の技術者に与えられる裁量権とエンタープライズ精神、トップモデルのリリース速度こそが、Googleの高額報酬以上の磁力となってGoogle自身の優秀な技術者までを惹きつけていると考えられる。

マイクロソフトも、Googleまでもが、ハイエンドモデル開発を志向するAI技術者に、Anthropicに比べて魅力的な企業と映らなくなっているのだろうと思われる。

技術者の流出は、AIモデルベンダーとしてのGoogleにとっては痛い。

一方で、Googleの垂直統合された各事業の中のポートフォリオとしては、AIモデル開発一本足事業をとることはそもそもハイリスクすぎてできない。

そして、Anthropicにコミットメントする循環取引はAnthropicに対する投資として十分にハイリスクではあっても、そのリスクの程度はインフラ屋ではない他のOpenAIなどの競合AIモデルベンダーよりはるかに低く、むしろAnthropicという先頭ランナーに投資するというハイリターンの機会を逃さないための戦術となっていると言えるだろう。

結論:AIバブルの虚構を見破り、冷徹に勝利を引き寄せる王者

今、AIベンダー業界の構図は、Googleと対比すると、以下のようになる。

競合連合(専業AI+メガクラウド): 互いに出資と計算資源を売り買いする「循環取引」で売上を維持しつつ、回収の見通しが立たない膨大な設備投資を続ける。これには、OpenAIとAnthropicに一歩遅れながらキャッチアップする中国系AIベンダーを含む。

Google: 循環構造の危うさを見抜き、TPUと既存のエコシステムを武器に「安価・高速・高効率」なAIで実効的なシェアを奪いにいく

わずか数ヶ月単位のベンチマークの数値や、研究者の移籍報道だけを見て一喜一憂して「Googleの敗北」と断じるのはおそらく短視的である。

しかし、AI業界のウォッチャー全体が、フラッグシップモデルの短期的なベンチマークの比較に一喜一憂して、1週間ごとに今度はどこが勝った負けたと大騒ぎを繰り返しているように思われるのは私だけだろうか。

もちろん、苛烈なチキンレースを各AIベンダーが繰り広げるおかげで、エンドユーザーは、どこのベンダーのAIであっても、日日進歩する機能と高度な計算資源を、非常に割安に利用する恩恵を受けているといえる。

狂躁的なAIバブルや循環取引の熱狂から一歩引き、冷徹な収益性の裏付けを取りながら確実に自社エコシステムを強化するGoogleの姿は、むしろ次の「AIコモディティ時代」において最も生き残る確率が高い王者の戦い方を示していると言えるのではないだろうか。