2025.12.31

譲渡担保法における譲渡担保と所有権留保との優劣を巡る課題

弁護士 西村 幸三

1.はじめに
2025年5月30日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(以下「新法」)が成立し、同年6月6日に公布された。

    本法は、広く判例法理や実務慣習に委ねられてきた譲渡担保という非典型担保を、不動産以外について実体法の面からも法制化するものである。

    これまでも、集合動産と債権については従来から「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(平成10年法律第104号)が存在するが、同法は主に登記手続を経る場合の対抗要件を中心に規律したものである。

    譲渡担保法は、各種の非典型担保に物権としての実体規定や各権利が競合する場合の優劣に関する規定を幅広く整備したところに大きな意義がある。

    なお、施行は公布日から2年6か月以内とされており、現時点ではまだ施行されていない。
    本法は、金融機関とサプライヤーの間での動産・債権を始めとする権利の衝突に対し、かなりの論点整理を行うものである。

    今回は、わかりやすく、動産(在庫)の場合に焦点を当てて論じてみたい。

    金融機関は、仕入資金を融資する立場であり、企業の売掛債権や在庫(集合動産)を担保に確保した上で仕入資金を融資したいとなるから、債務者が仕入れた商品について優先的な権利を主張する立場にある。

    一方、商社等のサプライヤーは、月末締め翌月末払いといった継続的取引における回収不能リスクを回避するため、取引基本契約に動産に所有権留保条項を規定し、代金完済まで所有権を留保して、債務者が倒産すれば未払分の商品を所有権留保を楯に引き揚げたい立場となる。

    この両者の権利は、債務者の倒産の場面において激しく衝突する。

    これまでは最判平成30年12月7日の法理がサプライヤーの所有権留保の優先範囲についてメルクマールとなってきたが、新法の成立により、この優先順位のルールには無視できない修正が加えられた。

    本稿では、新法の条文に基づき、サプライヤーと金融機関の衝突という場面から、留意すべき結論の分かれ目について考えてみたい。

    2.最判平成30年12月7日の法理とその意義
    新法による変化を理解するために、まず新法による修正対象となった最判平成30年12月7日の法理を紹介する。

    (1) 判例の論理
    本判決は、金属スクラップの継続的売買において、売主(サプライヤー)の所有権留保と、買主の在庫全体に対する金融機関の集合動産譲渡担保権が競合した事例である。

    最高裁は、取引基本契約書の契約条項に「代金の完済をもって所有権が移転する」旨の条項(本件条項)があったことを重視した。

    また、1か月という特定の期間内に納入された商品の所有権は当該期間の代金債権のみを担保するという運用がなされており、目的物と被担保債権の間に強い牽連性(結びつき)を認めた。

    結果として最高裁は、代金完済まで所有権は売主に留まっているため、買主(債務者)は「無権利者」であり、無権利者が設定した譲渡担保権の効力は当該商品には及ばないとし、サプライヤーを勝訴させた。

    一方で、この最高裁判決は、月末締め翌月末払いで支払いされるような取引において、一ヶ月以内に納入された商品については所有権留保を優先させるというもので、それ以上前に納入された商品(商品代金が1か月ないしそれ以上未払の場合、またはいったん既払になった商品と未払のままの商品が混在する場合)について所有権留保が優先されるかは、未解決のままであった。

    (2) 旧法下での実務的課題
    この判決により、サプライヤーは、所有権留保条項の定め方や対象物の範囲には課題は残るものの、集合動産譲渡担保登記を備えていなくても譲渡担保権者に優先し得ることとなった。

    しかし、課題はそれ以外にもあった。たとえば、債務者の倉庫に残っている在庫のうち、どの商品が代金未払いで、どの商品が既払であるかを外部から特定することは困難である。

    そのため、倒産局面においては、申立代理人や破産管財人等が「特定不能」を理由に商品の返還や引渡を拒否することもしばしばで、破産管財人と交渉の末1~2割程度の財団組入を条件に引渡しを認めたりする運用が定着してきた経緯がある。

    3.新法による論点整理と判例法理
    新法は、こうした課題を整理するかたちで、公示(登記)を重視したルールを採用している。

    (1) 占有改定劣後ルール
    動産譲渡担保の対抗要件には「占有改定」が含まれる(新法第2条第1号、第32条)が、これは外形上の変化がなく公示性が低いため、二重担保のリスクや調査負担を増大させているとの批判もあった。

    そこで新法第36条第1項は、「占有改定によって対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法(動産譲渡登記を含みます)で対抗要件を備えた他の約定担保権(動産譲渡担保権、動産質権および企業価値担保権)に劣後する」という占有改定劣後ルールを導入した(譲渡担保法第36条第1項)。

    これにより、サプライヤーにとっても、金融機関にとっても、確実に優先順位を保全するためには、特例法に基づく登記(譲渡担保法第32条、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条第1項)を活用するべき状況がさらに高まることになったと思われる。

    ところで、サプライヤーという場合に、メーカーと商社が存在する。

    メーカーにとっては、売掛が焦げ付くのは、自分の作った製品の代金が回収できないということであり、いまだ債務者のもとにある在庫を、指をくわえて、金融機関が譲渡担保権を楯に優先して換価価値を持って行かれるのをみすみす甘受するというのは、理不尽で堪え難いことである。

    商社は、「商社金融」という言葉が古くから存在するように、メーカーと小売業者の間に介在することによって、「信用創造」をおこない、マネーサプライを担い、経済にとっての血液を作り出す作用がある。

    メーカーから商社が仕入れて、2次卸先や小売店に販売することで、メーカーにとっては買掛金が優良な商社によって担保される効果があり、2次卸先や小売店にとっては、弱小な信用を商社が補ってくれることによって、例えば手元資金が1000万円であっても月末締め翌月末払いで支払うことで、最大2000万円の仕入れをして販売できるということを意味する。

    一方で、金融機関にとっては、仕入資金を資金使途として、手形貸付、支払承諾、コミットメントラインといった融資手法で、二次卸先や小売店に1~6か月程度の短期的な融資を反覆している。

    これによって、二次卸先や小売店は、例えば手元資金が1000万円であっても、金融機関から3000万円の融資を受ければ、最大月4000万円の仕入ができることになる。

    この、商社(問屋)と金融機関(銀行・信用金庫)等による信用創造=レバレッジ(てこ)の機能は、経済の拡大と循環を拡大するものとして、経済学の初歩というべき知識である。

    メーカー・商社・金融機関3者にとって、債務者(二次卸先や小売店)の仕入れた在庫(倉庫にある集合動産)というのは、いずれから見ても、自らが信用を供与した対象であり、自分こそが優先して換価価値を押さえておきたい対象なのである。

    つまり、譲渡担保・所有権留保は、この3者が債務者を挟んで鋭く立場が対立せざるを得ない、もっともホットな場面ということにならざるをえないのである。

    (2) 牽連性担保権の特則とその限界
    サプライヤーにとって重要な整理点が、新法第31条および第37条の「牽連性(けんれんせい)担保権」の規定である。

    新法第31条第1項は、次に掲げる債務(その利息、違約金、動産譲渡担保権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む)のみを担保するために締結された動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡は、譲渡担保動産の引渡しがなくても、第三者に対抗することができると定めている(譲渡担保法第31条第1項)

    一号:譲渡担保動産の代金の支払債務

    二号:譲渡担保動産の代金の支払債務の債務者から委託を受けた者が当該代金の支払債務を履行したことによって生ずるその者の当該債務者に対する求償権に係る債務

    さらに、新法第37条本文は、「牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権は、牽連性のある金銭債務を担保する限度において、競合する他の動産譲渡担保権、動産質権又は企業価値担保権に優先する」と規定する(譲渡担保法第37条本文)。

    一方で、第37条ただし書には、重要な修正が加えられている。

    同条ただし書は、「他の動産譲渡担保権者が次に掲げる時のうち最も早いものより後に譲渡担保動産の引渡しを受けたときは、この限りでない」と定める(譲渡担保法第37条ただし書)。

    その基準時は次のとおりである:

    一号:他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権を除く)の動産譲渡担保権者が譲渡担保動産の引渡し(占有改定による場合を除く)を受けた時

    二号:他の動産譲渡担保権(集合動産譲渡担保権に限る)の動産譲渡担保権者が第41条第1項の引渡し(占有改定による場合を除く)を受けた時又は譲渡担保動産が動産特定範囲に属した時のいずれか遅い時

    三号:動産質権の設定時

    四号:譲渡担保動産が企業価値担保権の担保目的財産に属した時

    集合動産譲渡担保権の対抗要件については、動産特定範囲に属する動産の全部の引渡しを受けたときは、当該範囲に将来において属する動産についても対抗力を具備するものとされている(譲渡担保法第41条第1項)。

    すなわち、金融機関がサプライヤーの商品納入と同時もしくはそれ以前に「動産譲渡登記」を完了させていた場合、あるいは占有改定以外の方法で対抗要件を具備していた場合、その後に納入された代金未払いの商品については、先行する金融機関の登記がサプライヤーの留保所有権に優先することになる(譲渡担保法第37条ただし書)。

    これは、最判平成30年12月7日の結論が新法下では逆転し得ることを意味しており、金融機関側の予見可能性を高めるための規定である。

    4.倒産手続における新たな調整規定
    倒産実務における「財団組入」などの慣行についても、新法は線引きの基準を設けている。
    (1) 超過額の組入義務
    集合動産・集合債権譲渡担保権を実行して回収した際、実行から1年以内に設定者が倒産した場合、担保権者は回収額が次に掲げる額のいずれか大きい方を超えるときは、その超過額を倒産財団に組み入れなければならない(譲渡担保法第71条、第95条)
    ①目的動産の価額の10分の9

    ②実行費用及び最先順位の集合動産譲渡担保権の被担保債権の元本の合計額

    これは、仕入先(サプライヤー)や従業員の貢献によって維持された事業価値の一部を、一般債権者のために確保するための規定であり、元本は全額保護されるという点が重要である。

    (2) 取消命令の新設
    民事再生等の再建型手続において、担保権の実行通知により設定者が処分権限を喪失した場合(譲渡担保法第66条第3項)でも、事業継続に不可欠であれば、裁判所が実行通知によって失われた処分権限・取立権限を回復させる「取消命令」の制度が創設された(譲渡担保法第99条第1項等)。

    これにより、サプライヤーによる商品引き揚げが、事業再生の観点から法的に阻止される場面が明確化されている。

    民事再生法の施行(平成12年4月)以来、企業の民事再生申立は、一定規模以上の会社にとっては、破産と同等レベルに選択肢として一般化してきており、その中で、譲渡担保・所有権留保の取扱いで、担保物である売掛金や在庫を回収換価してしまいたいメーカー・金融機関は、事業継続を図りたい再生会社と厳しく対立してきたので、それに対する裁判所の介入=取消命令の規定を明文化することは、待ち望まれる必要な改正であった。

    (3) 動産の特定と管理
    新法下では、動産譲渡登記における特定方法が緩和され、所在場所の特定が必須ではなくなる(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律による改正後の同法第7条第2項第6号)。

    一方で、集合動産譲渡担保権の実行に際しては、実行通知の到達後に新たに加入した動産には譲渡担保権の効力が及ばないとされる(譲渡担保法第66条第2項)。
    分別管理が不十分な場合、新規加入物も当初の在庫と推定される(譲渡担保法第66条第4項)。

    5.譲渡担保権者・所有権留保権者の実行時の対応と留意点
    新法下での権利関係は、対抗要件の種類と時期によって複雑に分岐する。
    (1) サプライヤー側の対応
    サプライヤーは、取引基本契約において「代金完済まで所有権を移転させない」旨を改めて明記し、被担保債権を当該商品の代金に特定することで、第31条第1項の「牽連性のある金銭債務のみを担保する担保権」としての地位を維持すべきである(譲渡担保法第31条第1項)。

    また、金融機関の先行登記に対抗するため、新設される「所有権留保登記」(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律による改正後の同法第13条の2)の具備を検討する必要がある。

    (2) 金融機関側の対応
    金融機関にとって登記による先占が重要となる一方、実行手続においては「2週間の猶予期間(第60条・第61条)」という時間的制約が課される点に留意すべきである。
    清算通知から2週間が経過するまでは実行の効力が生じないため、その間に出される裁判所の「中止命令」や、効力を遡及的に覆す「取消命令」を想定しておく必要がある。
    また、清算通知における見積価額の不合理さが実行の無効を招くリスクにも留意する必要がある。
    一方でサプライヤーの場合は、在庫を出荷金額の単価で評価して引き揚げる(実質的に返品を受ける)旨通知すればよいので金融機関に比べればはるかに簡便である。

    6.結び
    譲渡担保法における種種の結論の分れ目は、もちろん、ここで挙げたものにとどまらない。


    今回は、その一片を紹介した程度にとどまる。優劣が問題になる具体的なケースは多岐にわたることが予想される。

    とりあえずは、新法の成立により、譲渡担保および所有権留保の実務は、判例による事後的な解決から、契約条項の整備や登記を重視した事前のリスク管理へとシフトすることになる。

    しかし、実際の債権譲渡担保や集合動産譲渡担保、さらには所有権留保登記の実務的な運用テクニックについては、今後制定される施行規則、さらには裁判例の蓄積を待つ必要があるだろう。